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黒の師弟(師妹?)が街角でばったり出会って“お昼でもどう?”なんて運んでいる同じころ。
魔級策士の姉様が職務放棄して来た“探偵社陣営”の皆様は、お昼休みへ食い込むお勤めの真最中で。
「往生際の悪いっ。」
現場指揮を執る理系眼鏡も凛々しい国木田の姉様が
凛とした一喝を逃走中の賊へと放った本日の案件は、
一行で説明するなら 盗品売買にと暗躍していた とある組織の摘発。
新興の顔ぶれならしく、行動の片鱗を聴いても年弱な面子で構成されていて、
不良が悪育ちして拍を付けたがってでもいるものかと思っておれば、
標的が某国の在日基地内の武器庫や物資庫などとなかなかに大胆。
単に軍資金欲しやでのコソ泥って手合いじゃあない、
あわよくば縄張り付きの組織に声掛けられるのを希望か、
それとも いわゆるヒエラルキーの下部組織を舐め切ってのこと、
小さいところから潰してって
やがてはこのヨコハマを侵略してゆこうぞなんて
同世代の中で大風呂敷でも広げているものか。
『一番恐ろしい組織ほど表立っては名が見えないもので、
フロント企業とのつながりさえ素人には全く知られていない某マフィア組織の
子飼いの物資班が管理していた物品に手を出したのが運の尽きでね。』
物知らずな青二才がと煙たがるクチや、
まあまあ、そのうち身の程を知ってどっかの傘下の使いっ走りに収まるさねなんて、
寛大に構えて傍観していたクチなどが、
おおう とんでもない馬鹿やらかしたもんだと驚き呆れた展開になり。
それでもまだ自分らの悪手に気づかぬまま、
性懲りもなく某マフィアの“隠れ蓑”たる とある商社の隠し倉庫、
そこへこそりと収納されていた 換金しやすい金目の物資や
その筋で引っ張りだこな武装用のアイテムを納めたトランクルームを狙いまくった。
だが
そりゃあ的確に追手が掛かる焦燥感に苛まれ、
仲間がごりごりと削られ減ってゆく恐怖に蝕まれ、
とうとう幹部格の数人しか居残らぬ惨状となった今。
最後の大仕事と構えた窃盗に運んだところ、
何故だか軍警からの追っ手が掛かり、
制服組の部隊を的確に指揮する女傑が不思議な手帳をかざしては
行く手を封じる事態が降って思わぬルートへの選択を強制される。
「な、何だよあの女はっ。」
手帳をかざせば路地のあちこちへ荷物や植木鉢が次々降ってきて
その突発事にひぇえッと跳ね上がっては逃走コースを変えざるを得なくなるところ、
はっきり言って幹部とやらも ただのガキに違いなく。
忍び込んだ倉庫から随分と走らされたその末に、
右往左往しながら土地勘のない場末へと追い詰められ中。
古びた倉庫群や廃ビルの居並ぶ生気のない区画から薄暗い洞のような通路を逃げてゆく。
彼らにはギリギリで土地勘もある経路だったようで、
湿っぽい逃走経路はそのうちどこからも光の差さない真っ暗な状態となったが、
数分ほど進めばすぐにも出口だろう明るみが先に見え、
天井の低いトンネルのようなところだった通路を抜ければ
何と初夏の陽気に生育中の雑草が生い茂る、
河川敷の草っぱらに通じるルートだったようで。
大方、増水時に用立てる貯水庫にでもつながっていた旧の連絡路というところか。
駆け込んでしまった先が意外だったというよりも、
「ちっ。」
余りに開放的な場だと気づいてだろう、安っぽい背広姿の頭目殿から舌打ちが出る。
川にかかる橋の上にも、包囲陣の一部だろう警官らの姿が見えており、
隠し通路にうまく逃げ込んだつもりが、
体よく、相手の包囲が待ち受ける方へ誘導されていたらしく、
このまま土手という障壁に左右を挟まれているこの場所にいては
あっさりと挟撃に合うばかり。
「兄貴っ!」
共に続いていた腹心だろう若いのが、
逃げてくれと背を押して、そのまま橋の上の警官へ鈍色の得物を向ける。
武器の売り買いもしないではない連中だったが、せいぜい個人相手の数量であり、
まさか自分たちもそういう武装をしていたとは思わなんだか、
「…っ。」
一瞬 場の空気が凍り、
その隙をついて素早く行動を決めた頭目が選んだのは
コンクリさえ打たれてはない土塊剥き出しの土手の方向。
土手の斜面が思いの外 低いのに気がついて、
二階家の屋根くらいかと目星をつけたそのまま、
一か八か 駆け上がって街路に戻り、どこへなと逃げようと構えたが、
「そうはいきませんよ。」
ひょこり、土手の上へ姿を現したのが、
オーバーオールに麦わら帽子を背へと提げたという牧歌的なたたずまいの、
そばかすも愛らしい、金の髪した年少な少女。
このような騒動の、しかも荒事へ関わるとは到底見えぬ風貌だが、
まるで運動会の駆けっこか、はたまた鬼ごっこの幕開けだというノリ
そりゃあ朗らかな笑顔のまんま、賊の頭目が逃走ルートに選んだ斜面の上、
ガードレールさえ無いよな上の道から、
そりゃあッと飛び出し、そのままの勢いで駆けおりてくるではないか。
垂直とまで極端に切り立ってはないが、それでも結構な急斜面。
それをほぼ一気呵成という勢いだけで駆けおりてくる、間違いなく彼女もまた捕り手の一人のようであり、
「ふざけやがってっ。」
それなりにいかつい装備をまとった警官ならいざ知らず、
出席簿みたいな帳面片手に何やら仕掛けを操作して翻弄してくれた眼鏡の女といい、
この、どう見たって中学生くらいの少女といい、
軍警が秘かに抱えている秘密部隊か何からしいが、
どう見たって荒事向きではない顔ぶれをぶつけられたのが
プライドだか虚栄心だかに突き刺さったらしい。
……現に追い詰められてて何をかいわんやですけれど。(う〜ん)
安背広の懐へ手を突っ込むと、こちらもまた黒鋼鉄の得物を取り出す。
商売ものであり自分らも装備してはいなかろ、
素人同然だ実際に撃ったことはなかろと分析していたし、
実際 のちの取り調べでも撃ったのはこれが初だったとの自白が取れたのだが、
そうではあれど、それはそれ。
一般警察以上の荒事慣れした顔ぶれ揃い、
何となればあてにされるほどの“武装探偵社”だといっても、
命知らずな真似は原則 ご法度であり、
最低限の護身は優先されてよし。
ヨコハマを焼くような緊急事態ででもあればともかく、
こんなレベルの騒動に命かけてどうするかと、それこそ社長から雷が落されること請け合いなのだが、
「賢治ちゃんっ!」
加速がついていて止まれなさそうな牧歌的少女のすぐ後からそんな声が飛び、
ザクッと地を蹴る音が立ったそのすぐ次の瞬間、
背広男とオーバーオールの少女との間へ割り込むように飛んできた存在有り。
余程に慌てて飛び込んで来たものか、
二人の狭間、お仲間の麦わら少女の楯になるよう着地したそのまま
かかとでブレーキを掛けて自身の加速を殺しており。
自身の腕を抱き、脚もぎゅうと縮めたという 一応は防御の恰好でいたけれど、
強行突破しか構えていない賊の、ほぼ未経験な手になる雑な手際、
しかも突発事態が立て続いたことでパニックに拍車がかかったか、
「な、何だ貴様っ。」
シリンダー銃ではなことが災いし、マガジンに相当数充填された弾丸を撃ち尽くす勢いで
闇雲に撃たれた銃弾が雨あられと向かって来るのと真っ向からのご対面。
「な…っ。」
「敦さんっ!?」
銃を装備しているかもという確率、低いが無いわけじゃあないと用心はしていた。
ただ、相手は肝の座った海千山千ではないだけに、
逃げることを優先しようから無駄なことはすまいと、
それこそ合理的かつ統計的にそうと断じていたのだが。
恐慌状態に陥ってどんなびっくり箱反応が出るやもしれぬと、
手練れの面々なだけに そこまでは補完されていなかったのが仇となり。
『だって、賢治ちゃんは打撃に強い剛力さんだけれど、銃撃や刃物には…。』
彼女の異能は空腹時に発揮される“雨ニモマケズ”で、
金太郎も某中原中也さんも真っ青な頑丈さと強力っぷりは、
敦嬢も公私含めて直に何度も観ていて知っているけれど、
弾丸が利かないかどうかはまだ知らない。
だったらと、本来は後詰めだったはずの白虎のお嬢さん、
矢も楯もたまらずという想いから、弾かれるように飛び出したらしく。
まだ距離はあったとはいえ、それでも何十mもというそれじゃあない。
人へ凶器を向けることへの素人ならではな委縮もあったか、
結構大きな的だのに真ん中ほど狙いが逸れてしまうらしかったが、
身を丸めていた二の腕や肩先などへ疾風のごとき銃弾が掠めたし、
「…っ。」
何で避けられないんだろうと思うほど、その一発はようよう見えていたし、
その直進の先、微妙に交差し切れていないがための腕の隙間があるのも判ってた。
そこへ吸い込まれんとしていた弾丸の存在へ、そのまま身が凍るほどの恐怖も帯びていた一撃だったはずが、
“……え?”
何故だか懐ろの手前でぴたりと止まった。
何だ何だ、油断させといてズドンと突っ込んでくるのか?
そんな性根の悪い弾丸での死に方は厭だと、
胸の奥をきゅうきゅうとさせつつも…余裕の言いようを胸中にて撒き散らかしておれば、
「鉄線銃っ!」
雷光一閃、それは鋭い一声とほぼ同時に一直線に伸びてきた攻撃が賊の手元へ当たり、
そこを支点に柔軟なワイヤーがぐるぐるぐるんと男の身をがんじがらめに縛りあげての捕縛も終了。
自分がしでかした無茶を棚に上げ、
え?え?と畳み込むよな展開に翻弄されて、オロオロしていた敦嬢の細い肩を、
背後になってた賢治ちゃんが支えるよにして抱き留めて。
「大丈夫でしたか? 弾丸が一発だけ斜め向こうへ飛んでったようですけど。」
「え?」
意外にもというと失礼ながら、戦闘中の集中力はさすがに鋭いひまわり娘。
自分の身代わりのように盾になった虎の少女へ襲い掛かった弾丸を
咄嗟のことながらもずば抜けた動体視力でで一つ一つ把握していたらしく。
最後の方、彼女自身の身の影に吸い込まれたのがあってヒヤッとしたが
それはすぐさま弾かれるように飛んでったと、
「敦っ、無茶はあれほど「あ〜つ〜し〜〜〜っ!!」 はい?」
牛をも殴ってひれ伏させる怪力少女が、
緊張に強張ったままの虎のお姉さんを河原までひとっ飛びで運んだそのまま、
何を段取りになかったことしたんだと、
十分お叱りモードの国木田さんがつかつか歩み寄ったのへと食い合って。
そりゃあ迫力のある恫喝という形にて、
威容も猛々しく割り込んできた、存在感のあるお声これありて
「あ。」「あれは ポートマフィアの。」「逆さまになっても帽子が落ちない人♪」
初夏の緑が芽生えつつある土手の上、
まだ衣替えの前だからか、その背を覆う長い黒外套を風にそよがせ、
胸高に腕を組み、ややお怒りの様子な仁王立ちにてこちらを見下ろす偉丈夫、
もとえ、女丈夫さんが約一名おいで。
華やかな美貌を縁どる赤い髪に乗っけた 黒の帯付き帽をあみだにかぶり、
その庇の下からやや尖った視線を此方に寄越しているのが
結構な距離がありながらも伝わってくる気魄は、
さすがあの大組織の頂点近くに在する五大幹部たる所以というところか。
本来、その活動理念や方向性から、
社会に仇為す裏組織め、所詮は使いっ走りの政府の狗がと、
強烈に反目し合っての敵対関係にある相手だが、
様々な巨悪相手の戦いにおいて共闘関係になること数知れずなため、
現在、絶賛停戦状態中にある間柄だし、
「そっかぁ、
最後の弾丸が敦さんから逃げてったのは、
あの人が異能を仕掛けたせいなのですね。」
「…それは本当か? 賢治、敦。」
「えっとぉ。」
公認とまではいかないものの、何だかんだで顔合わせも多い中、
相手の異能は重々知っているし、
この子にはどうやら姉妹のように仲良くしてもらっているらしいの
ほかの社員にもぼちぼちと伝わっている姉様で。 ← 今ここ
「だったら何が起きていたかもようよう見定めていることだろう、
いい機会だからみっちり叱ってもらっておいで。
今日はこのまま直帰でいいよ。」
「…っそんなぁ。」
眼鏡のブリッジを人差し指の先で押し込み、淡々と言い放つお姉さんだったのへ、
どっちにしたって叱られように縋るような声を出す虎ちゃんなのが、
どういう間柄なのかを如実に示してもおり。
「中也さん怒ったらそりゃあ怖いんですったら、
報告書も書かなきゃいけないし一緒に帰りましょうよ。」
「そうは言ってもな、
あの様子じゃあ社までついて来てビル前で出て来るの待つってだけだと思うし。」
「そうですね。
ウチの村にもそりゃあ曲がったことが嫌いなおじさんが一杯いて
叱ると決めたら、先約の習いごとやお使いやが全部終わるまで
テンションそのまま待ってましたから判ります♪」
「ひぃい〜〜。」
敦ぃ、手前 あれほど言っといたよな。
そういう危ないことしてんじゃねぇって。
いくら超再生が働くってても頭や心臓射抜かれたら間に合わねぇだろうがよ。
あんの青鯖女(太宰)と組んでやがんのだって、
いざって時にあいつの異能が邪魔して回復の妨げにしかならねんじゃねぇかって心配してたってのに、
単独でもこれか? こういう無謀やっとんか?
カーボネイトの防弾ベストとサンバイザーかぶってた? あ?
言っとくがな、そいつぁ防弾には効いても薬品には弱ぇえんだよ。
接着剤での加工が出来ねぇくらいで、あっちゅう間に劣化するし熱にも弱ぇえ。
知ってる奴は知ってんだ、アテにしてんじゃねぇよ。
それに今思いついたっつうか慌てて思い出しただろ、それ。
身ぃ縮めてちゃあ防弾ベスト関係ねぇしな。
顔とか肩とか掠りまくってたみてぇだし、
ああほら、頬にも傷いってやがる、ほらこっち来な。手当てに帰ぇるぞ。
「…はい。」
すごい肺活量ですね、ノンブレスでしたねと、
そちらも相変わらず妙な切り口から
賢治ちゃんに感心される敦ちゃんなのは後日のお話だったのだった。
to be continued.(19.05.28.〜)
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*いよいよ始まりましたね、アニメ版「共食い篇」が。
いきなりの展開がさくさく進み過ぎて、
おばさん翻弄されまくりです。
そうそうそうだった、中也さん最初から結構出てた。
芥川くん、久しぶりvv
あああ、これって敦くんと中也さんの初対面になってたはずなのに、等々と、
いっぱい畳みかけられて目が回りそうでしたよ。
あのDBとかワンピとか、
一話を刻んだりオリジナルな幕間を入れたりしまくる脚本に慣れてる身には、
何でこうも生き急ぐのだと取り縋って引き留めたいほどです。(笑)
*それはさておいて。
ドカバキシーンだとサクサク書ける、やっぱり荒くたいおばさんです。(とほほ)
賢治くんの“雨ニモマケズ”って、銃弾へはどうだったかが判りませんで、
見てないから知らない敦ちゃんということにさせていただきました。
刃物はダメだったような気がするんですがね。
(猟犬の鋭利な一突きだったから通ったのかな?)
これで電撃も効かなけりゃ、まんま海賊王とお揃いだなぁ。

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